変チン(途中)

ある朝、凍える寒さによってなにか胸騒ぎのする夢から醒めると、ベットのなかの自分が一つのばかでかい陰嚢に変わってしまっているのに気が付いた。――といっても起きてすぐに陰嚢と分かった訳ではない。まず薄膜に包まれたような思考の中で、皮膚表面の感覚器を頼りに身体の形状は大福のような楕円形であることや、皮膚には深い皺が刻み込まれ、ぽつぽつとちぢれた毛が生えていることを突き止め、口は三半規管により下部――更に言えば左寄り――と判断される位置にへの字型且つ舌と歯を失った状態で付いていることを確認した。
その後薄膜が破け、思考が明晰になってくると、なるほど私の姿はヒトの陰嚢に近いものである事が分かった。中央にぐるりと筋が通っており、その筋を境に左右それぞれ、玉のようなものが内(うち)に鎮座している。私がいまこうして生きていることから五臓六腑は現存していると考えると、口の付いている方向である左の玉には消化器官が、さっきからよく脈打つ右の玉には心臓が存在していると推測できる。