(──絶え間なく泡が螺旋状に上昇し続けている川を取り巻くようにして存在する大都市「壺」。

 さて、この都市のはずれに貴方が生まれた。文化を持つ貴方がこの世界に関わったのだから当然のことである。いま、私が貴方の文化に触れて感化されたのと同様に、貴方もこれから私の持つ文化に触れて感化される。初めてこの世界の文化に触れるのだから私を全て理解するのは難しいかもしれない。

 まず、私は"私"と名乗っているがそれは貴方の文化に従っているに過ぎず、自我のようなものはない。この世界の誰かの文化的遺伝子が、衁(コウ)──空気、水の両方に似た性質を持つこの世を充たす物質である──を媒体として伝わる時にとる形である「泡子」が私の正体である。

 この世界に存在する全ての理性的動物は糊沌(コトン)となる。つまり貴方もこの世界では糊沌である。彼らは決まった形を持たず、個体間の外見上の一致点といえば硬い部分と柔らかい部分を持つことと、コミュニケーションに用いられる管状の器官「墨口」と二本以上の触手を持つこと、感覚器官が皮膚のみであること程度である。また、彼らは文化的遺伝子のやり取りのみに快楽を感じ、彼らの文化的遺伝子は衁中を通るとき、先に述べた泡子となり、周りに伝わる。この泡子は生み出すのにエネルギーを要する為に無闇にばら撒くようなものではない。また、硬い部分──多くの場合殻のような中空の構造をしている──の中に胞子を溜め込む為に、外傷を受けると溢れだす。