十勢地町―2

がらっとカーテンを引き、捨蔵は下界を見下ろした。鋭いブレーキの音と鈍い衝突音により安眠を妨げられたからである。しかし、事実は特に面白みもなく泥にまみれた野良猫が車に轢かれていただけだった。
捨蔵は視線を朝焼けの空に向けて漠然と考えた。野生動物が車に轢かれて死ぬのは人間が森を削り、彼らの居住地を減らしてきたからだという黄色い声の主張は全くのお門違いであり、実際問題、ただ猫の天敵が大型肉食動物から鉄の猪に変わっただけではないのか、と。
その考えがより明晰な形に凝固することは、重なる鈍い音によって遮られた。視線を猫の死体に戻すと、頭は何処にも見当たらず、代わりにアスファルトがてらてらと血に濡れていた。捨蔵はそれを一瞥した時、ピクリと眉毛が上がり、瞳は揺らいだが、視界やその他諸々を遮るためにカーテンをぴしゃりと閉めてしまった。